自社の技術を既存市場に限定せず、ほかの有望な分野に展開して新たな市場を開拓する「用途開発」は、今や製造業の事業拡大の要となっています。しかし、「既存製品の用途開発を検討しているけれど、ノウハウがなく、思うように進められない」という企業も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、製造業における用途開発の方法や具体的な手段を、詳しく解説します。実際に用途開発を成功させた事例も紹介するので、用途開発でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
用途開発とは
用途開発とは、自社が保有する技術や製品などの新たな活用方法(用途)を見つけることです。すでに使用されている領域の市場ではなく、全く異なる分野や新たなニーズに対応できるように新しい用途を見つけることで、過当競争から抜け出し、新たなビジネスチャンスを創出することを目的としています。
用途開発は、自社の製品に対する深い理解や市場ニーズの綿密な調査が必要なため、自社内ですべてを行なうには課題も多くあります。
しかし、成功すれば、既存の技術を活用できるため開発コストを抑えられるほか、競合との大きな差別化を図ることができます。ぜひ、マーケティング戦略の一環として取り入れたいところです。
なぜ、用途開発が必要?
製造業では、常に市場のニーズや技術の進化に対応し続けることが求められます。製造業において用途開発が必要な背景を理解するためには、まず現代の市場環境と競争状況を把握することが重要です。
現代の市場は、グローバル化と技術革新が進み、競争が一層激しくなっています。製品のライフサイクルは短くなり、顧客のニーズはますます多様化・複雑化しています。このような状況では、既存市場だけで自社の製品や技術を差別化し、競争に勝つことは非常に困難です。
この現状を打破するために、多くの企業では用途開発が求められています。用途開発とは、前述のとおり既存の技術や製品に新たな用途を見出し、それを活用することで新しい市場を開拓するプロセスです。これにより、既存の製品だけではアプローチできなかった新規顧客の獲得が可能となります。
用途開発は、既存製品の付加価値の向上や新製品の開発のきっかけにもなり、新規事業の機会創出にもつながります。例えば、ある技術が特定の市場で成熟している場合、その技術をほかの市場や用途に展開することで、新たな収益源を確保できます。このような新規事業の機会創出は、企業の成長や収益性の向上に直結します。
さらに、副次的な効果として、自社が有する技術力の向上と発展が挙げられます。用途開発のプロセスを通じて、既存の技術を深く理解し、その可能性を最大限に引き出すことができます。これにより、技術革新が進み、より競争力のある製品やサービスを提供できるようになります。また、用途開発を通じて得られた新しい知見やノウハウは、将来的な技術開発や製品改良にも役立ちます。
このように、用途開発は単に技術を開発するだけではなく、企業の戦略的な目標やビジネス全体の成功に直結する形で、その技術を活用する重要なプロセスです。用途開発によって新たな市場を獲得し、事業機会を創出することで、企業の継続的な成長や収益性の向上が期待されます。
製造業の用途開発の事例
次に、用途開発の成功事例を4つ紹介します。実際の成功事例を通して、企業がどのようにして技術を革新し、新たな価値を創出しているのか、具体的に見ていきましょう。ぜひ、自社における用途開発のイメージ作りの参考にしてみてください。
素材メーカーが行った付箋の開発
用途開発の成功事例で有名なものに、付箋の開発があります。
これは、強力な接着剤の開発の研究過程で生まれたもので、「薄く綺麗につくが、簡単に剥がれる」という特性の接着剤を発見したことから始まります。偶然生まれた、この弱い接着剤の使い道を社内のあらゆる部門に相談しながら考え続けたのち、きっかけとなったのは本に挟んだしおりが何度も落下したことでした。開発者は「しおりが本のページを破ることなく、くっついたら便利なのに」と閃き、接着剤をしおりに活用したことから、貼ったり剥がしたりを繰り返せる付箋が生まれました。
このように、本来の目的ではないものでも、製品の特長に着目して別の用途を模索し続けることで、新たな活躍が生まれる可能性があることがわかります。
フィルムメーカーのフィルム技術を活かした化粧品開発
デジタルカメラの登場により、需要が激減していたカラーフィルム事業。そんな中、新たに参入したのがヘルスケア事業です。
一見すると、カラーフィルムとヘルスケアには全くつながりがないように思えるかもしれません。しかし、フィルムの現像に使うナノ化技術や、写真の色褪せ防止から始まった抗酸化技術は、スキンケア成分を肌に浸透させる効果の向上や、エイジングケアに大きく活かされています。
製品のライフサイクルには、いつか終わりが来ることもありますが、製品を通して得られた技術や知識、経験に寿命はありません。固定概念にとらわれず、自社が持つ技術をあらゆる分野に活かせないか、調査・検討すれば、新たな道を切り開ける可能性があることを示した事例です。
ーケティング戦略に合わせ、設定したペルソナが検索しそうなキーワードを洗い出します。
1つの軸となる商品カテゴリ名などの「掛け合わせキーワード」を、共起語検索ツールを利用して出したり、類義語も一緒に洗い出したりしてください。
この後にチェック項目でどんどん絞りこむため、“量”を意識して洗い出すことをおすすめします。
車のフロントガラスのコーティング技術から新しい日傘の開発
紫外線を特殊な波長に変換するコーティング技術は、もともとフロントガラスや窓ガラスのコーティング用に開発されていました。しかし、自動車に適用させるには、耐久年数に問題があったり、変換効率の問題があったりと、技術的な課題がありました。
そこで、このコーティング技術を別の用途で活用できないか、模索した際、コーティングを通った紫外線が赤色光に変換されることに着目。紫外線はシミやシワの原因となる有害なものですが、コーティングによって変換されたこの赤色光は、肌を傷めないどころか、修復する機能があることがわかりました。
この機能を使って、コーティング技術を、なんと、日傘に適用。本来の目的としていた用途ではなく、技術の特性そのものに着目したことで、肌により優しい日傘が生まれました。
先回りをして新規用途の探索に成功した、成膜装置メーカー
特定の素材に対して薄膜を作り、製品の耐久性や付加価値を高めることができる成膜装置。とあるメーカーの成膜装置は、ガソリン車のエンジンや部品周りの成膜を主用途としていましたが、EV化にともない、売上が低迷する見込みが出てきました。
そこで、別市場での用途の探索を行ったところ、耐腐食性が高く、金属表面を錆や腐食から保護する薄膜を作ることができるという点に着目し、成長市場でもある半導体デバイスの成膜用途が見つかりました。製品が持つ技術力を棚卸し、既存用途での売上が縮小する前に先回りをして用途探索を行った結果、有力な新規用途を見出すことができました。
用途開発の方法
用途開発を行う際は、自社で見つける方法と他社に依頼して見つけてもらう方法があります。ここでは、それぞれの違いやメリット・デメリットについて解説します。
自社で見つける方法
自社で用途開発を行う方法には、主に3つのステップがあります。
まずは、自社製品や技術の現状を詳しく把握し、その課題を明らかにすることです。このステップでは、主に市場における自社製品の立ち位置を理解するために、競合商品との比較分析を行います。
競合製品の性能や価格、顧客の評価などを調べ、自社製品とどのように差別化しているのか、または、どの分野で競争力が不足しているか、を特定します。これにより、自社製品の強みや弱みを深く理解し、改善すべきポイントを明確にすることができます。
次に、自社の技術について棚卸しを行います。ここでは、自社の技術そのものに焦点をあて、技術が持つ特長や強みをより詳細に分析します。自社技術が持つ独自の特性や競争優位性を把握し、その技術がどのような顧客の問題を解決できるか、を明確にします。
また、技術の適用範囲を整理し、現在の技術がどの分野で効果を発揮するか、または、新たな分野での適用が可能かを検討します。
このようにして、自社技術の強みや改善点を把握した後は、その技術が新製品の開発にどのように活用できるか、を調査・検証する段階に進みます。市場調査を行い、現在の市場で求められているニーズやトレンドを把握し、自社技術がこれらのニーズにどのように応えられるか、を評価します。
その際、技術の適用の可能性を検証するために、プロトタイプの作成や実験を行うことも有効です。これにより、技術が新製品として実際に機能するかどうかを確認できます。また、ビジネスの可能性や収益性を評価し、市場投入後の成功の見込みを立てることも必要です。
これらの3ステップを通じて、自社の技術が新製品開発にどのように貢献できるか、を見極めて、具体的な開発計画を策定することが、効果的な用途開発のカギとなります。
自社で見つける場合の課題
用途開発を自社で行うのは、実際には容易なことではありません。例えば、次のような課題も多く発生します。- ・社内の各部門との連携やコミュニケーションが取りづらい
- ・マーケティング知識を持つ人材が不足している
- ・用途開発のための予算や人的リソースに制約がある
- ・市場のニーズの発掘には時間とコストがかかる
- ・既存のニーズを超えた用途の発見が難しい
- ・ターゲット設定をミスした時の軌道修正が難しい
- ・細かな需要をスピーディーにとらえられない
このような背景から、なかなか用途開発に乗り出せない企業も少なくありません。その場合は、専門知識と経験を有する他社に依頼して、費用対効果の高い用途開発を行なう方法もあります。
他社に依頼して見つけてもらう方法
自社での用途開発が時間やリソース面で厳しい場合、専門知識を有するマーケティング会社に用途開発の支援を依頼するとよいでしょう。
マーケティング会社に依頼するメリットは、自社にはない専門知識や技術があること、新たな視点から開発を行うことで新規事業の創出がしやすいこと、などが挙げられます。マーケティングのプロに依頼すれば、市場ニーズを的確に把握し、ターゲティングしてくれます。自社で行うよりスピーディーに用途開発を進められる上、成功する可能性も高いといえるでしょう。
他社に依頼して用途開発を行ってもらう場合は、自社の技術はどういったものなのか、強みはどこにあるのか、などを整理した資料を作成しておくとスムーズです。
さらに、用途開発の新たなアプローチとして、自社技術をより広く公開する方法もあります。マーケティングでは、いかに多くの用途アイデアを呼び込めるかが鍵となるため、Webサイトなどを介して不特定多数の技術者に自社の技術をオープンにするのも効果的です。
自社技術を公開することで、その技術を求める相手から問い合わせが来るだけでなく、技術資料に興味を持つ人の傾向などが、アクセスデータから得ることができ、市場ニーズの調査にもつなげられるでしょう。
その際、資料は他業界の技術者にもわかりやすくし、技術を活用するイメージが湧きやすいものにするのが重要です。
用途開発マーケティングの具体的な方法
- 用途開発のプロセスを成功させるためには、綿密な分析と計画、実行の繰り返しが不可欠です。ここでは、自社で用途開発を進める際の具体的なステップとして、次の5つを紹介します。
1.MFTフレームワークを使った技術の棚卸し
2.狙うべき市場をピックアップし新たに参入する市場への勝ちパターンの整理
3.棚卸しした技術の各要素をコンテンツ化するための企画
4.コンテンツを制作し、Webサイトに掲載する
5.アクセスデータを分析し、技術MAPの更新要素を探る
それぞれ詳しく解説します。
MFTフレームワークを使った技術の棚卸し
まずは、MFTフレームワークなどを使って自社技術の棚卸しを行います。MFTとは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の略で、自社の技術がどのような市場で、どのような機能として活かせるのか、を体系的に分析できるフレームワークです。
MFTフレームワークでは、単に市場ニーズと技術を対比するのではなく、その間に「機能」という概念を置くことで、より深いレベルでの分析を可能にします。
Market(市場)
顧客が求める機能や価値、市場のトレンドなどを分析する
Function(機能)
顧客のニーズを満たすために、必要な機能や効用を定義する
Technology(技術)
自社が保有する技術や開発可能な技術を洗い出す
MFTフレームワークのメリットは、市場ニーズと自社技術の間に、どのようなギャップがあるのかを明確化し、新たなビジネスチャンスを発見できることにあります。また、機能に着目することで、従来の考え方にとらわれず、多様なアイデアを生み出すことができます。
自社の技術をより小さな機能単位に分解し、各機能が、どのような課題を解決できるか、を明確にするとよいでしょう。この際、多角的なアイデアが生まれるように、様々な部門のメンバーを巻き込んで行うことが推奨されます。
狙うべき市場をピックアップし新たに参入する市場への勝ちパターンの整理
次に、技術の棚卸しで得た情報を基に市場を調査し、自社の技術が最も活かせる市場をピックアップします。大きく成長が見込める市場や、競合が少なく、差別化しやすい市場が狙い目です。下記のポイントに着目し、新たに参入する市場をピックアップしてください。
・今後大きく成長が見込める市場か
・競合が少なく、参入の余地があるか
・自社の技術が解決できる、顧客の課題やニーズが存在するか
参入する市場をピックアップしたら、ターゲットを設定し、その顧客にどのような価値を提供するのか、を明確にしましょう。その際、競合との違いを明確化し、自社の強みを最大限アピールできる戦略が重要となります。
棚卸しをした技術の、各要素をコンテンツ化するための企画
次に技術の各要素をコンテンツ化するための企画を考えます。
コンテンツとしてはオウンドメディアのほか、ブログ、ホワイトペーパー、ビジュアルで伝えやすい動画やインフォグラフィックなどがあります。顧客がより理解しやすくするには、文章のほかにイラストや動画などを利用するとよいでしょう。
コンテンツを企画する際は、単にアイデアを出すだけではなく、ターゲット、目的、戦略などを明確にすることが重要です。
主なコンテンツ企画のプロセスは、次のとおりです。
1.目的設定
コンテンツを通じて、どのような成果を出したいのか
2.ターゲット設定
誰に向けて発信するのか
3.キーワードリサーチ
SEO対策として、ターゲットが検索しそうなキーワードをリサーチ
4.コンテンツ形式の選定
ブログ、ホワイトペーパー、動画、インフォグラフィックなど、技術の特性に応じた最適な形式を選定
5.ストーリーテリング
読者の興味を引くためにストーリー性を持たせる)
どれほど良質なコンテンツを企画しても、閲覧されなければ、意味がありません。しっかりとターゲットに届くように、SEO対策を意識して企画を進めるとよいでしょう。
コンテンツを制作し、Webサイトに掲載する
企画したコンテンツが制作できたら、Webサイトに掲載します。
コンテンツを制作する際は、技術の説明資料に加え、活用事例やコラム、用語解説なども盛り込むと、より顧客に伝わりやすいコンテンツとなるでしょう。図や表を用いる、画像や動画でイメージさせやすくするなど、より見やすく、わかりやすいデザインをするよう心がけてください。Webサイト上で公開しづらい資料は、ダウンロード資料などにするのも有効です。
アクセスデータを分析し、技術MAPの更新要素を探る
Webサイトを掲載し、技術を公開したら、定期的にアクセスデータを分析し、どのコンテンツが読まれているか、どのキーワードで検索されているか、などを把握しましょう。分析した情報から技術MAPの更新要素を探り、コンテンツを常に最新の状態にアップデートすることが重要です。
これらを根気強く繰り返すことで、より良い用途アイデアが集まるコンテンツへと成長することができます。
ただし、自社で実施するには自社技術の深い理解が必要な上、マーケティングの専門知識や綿密な市場調査も要するため、たくさんの時間とリソースが必要です。さらに、要件開発後の新製品の認知を促進する手間や、集客のスキル不足のリスクなども考えられます。
そのため、より効果的な用途開発を目指すには、コンテンツ化からWebサイト上での集客までを外部に任せる方法もおすすめです。外部に任せれば、多様な視点や専門性の高い視点から用途開発でき、既存業務への影響を少なくして迅速に進められます。自社での用途開発が難しい場合は検討してみるとよいでしょう。
まとめ
用途開発は、自社の技術を最大限に活かし、新たなビジネスチャンスを生み出すための重要な戦略です。用途開発に成功すれば新しい市場・顧客を獲得し、競合との大きな差別化も図れるため、マーケティング戦略の一環として取り入れたいと考える企業も多いはず。しかし、自社で用途開発を行うには、マーケティングの専門的な知識が必要だったり、市場ニーズの綿密な調査をしなければならなかったりといった課題もあります。
そのため、より専門性やスピードを重視する場合は、社外に用途開発を任せるのがおすすめです。メディックスでは、製造業の企業様向けに用途開発を行うための用途整理から用途探索の実行まで、デジタルを活用したサービスにより、支援をしています。
・自社の技術は、どの市場で価値を発揮できるのか?
・新しい市場に対し、営業投資をして本当に成果を上げることができるのか?
このようなお悩みに応えるべく、新たにターゲットとすべき市場選定から用途探索の戦略の策定までを、メディックスの独自の開発のフォーマットを用いた、ワークショップ形式の伴走支援を提供しています。
また、これまで20年以上の実績の中で、400社を超えるBtoB企業のデジタルマーケティング支援から得たノウハウを活かし、用途探索に必要なWebコンテンツの拡充やWeb広告媒体を活用したテストマーケティングプランなども含め、デジタルを活用した用途探索をワンストップで支援することが可能です。
用途開発マーケティングに少しでも興味をお持ちの場合は、お気軽にご相談ください。
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