
SaaSビジネスの成長を左右する「チャーンレート(Churn Rate)」。なんとなく意味はわかるけど、正しくは何を指している?自社のビジネスには、どう活用するの?そんな疑問をお持ちのBtoB SaaS企業の経営者やマーケティング担当者の方々へ、この記事ではチャーンレートの基礎知識から一般的な改善施策の例、そして、マーケティングとの関係までを、わかりやすく解説します。
近年、SaaSビジネス市場は急速に拡大し、競争も激化しています。そんな中、安定した収益と持続的な成長を実現するためには、顧客の解約率、つまりチャーンレートをしっかりと把握し、コントロールすることが欠かせません。チャーンレートは、数字以上の意味を持ち、事業の健全性、そして将来性を占う重要な指標と言えます。
この記事を通して、チャーンレートへの理解を深め、具体的な対策を講じることで、自社のビジネスがさらなる成長軌道に乗ることができるでしょう。
目次
チャーンレート(Churn Rate)とは
チャーンレートとは、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を表す指標を指します。簡単に言えば、「顧客が、どれくらいの割合で離れていってしまうのか」を示す数値です。
SaaSビジネスにおいて、チャーンレートは企業の成長と収益に直結する重要な要素です。なぜなら、新規顧客の獲得に注力しても、既存顧客がどんどん離れてしまっては、収益の安定性や持続的な成長が見込めなくなるからです。
例えば、顧客満足度が低い場合、チャーンレートが高くなり、収益の安定性が失われてしまいます。逆に、チャーンレートが低いということは、顧客がサービスに満足し、継続して利用してくれることを意味するため、安定した収益基盤を築くことができます。
チャーンレートの種類と計算方法
チャーンレートには、主に「カスタマー(顧客)チャーンレート」と「レベニュー(収益)チャーンレート」の2種類があります。この2つがある理由は、顧客の解約がどのように影響を与えるかを、顧客数と収益という異なる視点から分析し、より幅広く理解するためです。
カスタマーチャーンレート
解約した顧客の割合を示す指標です。顧客離れの傾向を把握し、顧客維持のための施策に役立ちます。
レベニューチャーンレート
解約によって失われた収益の割合を示す指標です。収益への影響を把握し、収益改善のための施策に役立ちます。
それぞれ計算式は次の通りです。
カスタマーチャーンチャーンレート = (解約顧客数 ÷ 総顧客数) × 100 |
レベニューチャーンレート = (解約による損失MRR※ ÷ 総MRR※) × 100 |
※MRR(Monthly Recurring Revenue)とは、月次経常収益と呼ばれ、サブスクリプション型のビジネスで、毎月繰り返し発生する収益のことを指します。SaaSビジネスにおいて重要な指標の一つです。
SaaSビジネスにおいては、顧客一人ひとりの収益貢献度が異なるため、顧客数と収益の両面からチャーンレートを分析することが重要です。例えば、高額プランの顧客が解約した場合、カスタマーチャーンレートへの影響は1人分ですが、レベニューチャーンレートへの影響は大きくなります。
このように、2つのチャーンレートを計算・分析することで、顧客離れと収益への影響を包括的に把握し、より効果的な改善策を講じることが可能になります。
チャーンレート改善のための施策
チャーンレートを効果的に改善するためには、包括的なアプローチが必要です。ここでは、主要な施策とその詳細、加えてそれらがどのように連携して顧客維持と収益拡大に貢献するか、を詳しく説明します。
1. カスタマーサクセスの強化:顧客中心のアプローチ
カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを通じて成功を達成できるよう支援するプロセスです。これは、顧客満足度を高め、解約率を低下させるための重要な戦略です。具体的な施策としては、次に説明するものが一例として挙げられます。
オンボーディング(導入プロセス)の最適化
新規顧客が製品やサービスをスムーズに使い始められるよう、導入支援やトレーニングを提供します。これにより、初期段階での解約リスクを軽減し、顧客が製品の価値を早期に認識できるよう支援します。
パーソナライズされたサポート
顧客のニーズや課題に合わせて、個別に対応したサポートを提供します。定期的な連絡や個別相談を通じて、顧客との関係を強化し、問題解決を支援することで、顧客満足度を高めます。
積極的なコミュニケーション
顧客との継続的なコミュニケーションを続け、製品の活用状況やフィードバックを収集します。これにより、潜在的な問題を早期に発見し、適切な対応策を講じることができます。
顧客コミュニティの構築
顧客同士が交流できる場を提供し、情報交換や意見交換を促進します。これにより、顧客エンゲージメントを高め、製品への愛着を深めることができます。
2. アップセル・クロスセルの促進:収益拡大と顧客維持の両立
アップセル・クロスセルは、既存顧客に上位プランや追加機能を提案し、収益を拡大する戦略です。これは、顧客のニーズを深く理解し、適切なタイミングで、適切な提案を行うことによって、顧客満足度を高めつつ、収益拡大につなげることができます。
顧客ニーズの把握
顧客の利用状況や課題を分析し、個々のニーズに合った提案を行います。顧客が製品から得られる価値を最大化できるよう、適切なプランや機能を提案することで、顧客満足度を高めます。
パーソナライズされた提案
顧客の利用状況や行動履歴に基づいて、個別に対応した提案を行います。顧客が本当に必要としているものを提案することで、成約率を高めることができます。
価値の明確な提示
アップセル・クロスセルによって得られるメリットを明確に提示し、顧客に価値を理解してもらいます。顧客が投資に見合う価値を感じられるように、具体的なメリットやROI(投資利益率)を提示することが重要です。
3. プロアクティブな解約防止:顧客の兆候をとらえ、解約を未然に防ぐ
顧客の解約兆候を早い段階でキャッチアップし、適切な対応策を講じることで、解約を未然に防ぐことができます。
解約兆候の分析
顧客の利用状況や行動パターンを分析し、解約の可能性が高い顧客を特定します。例えば、ログイン頻度の低下やサポートへの問い合わせの減少などが解約兆候として考えられます。
積極的な働きかけ
解約の可能性が高い顧客に対して、積極的に働きかけを行います。例えば、利用状況に関するアンケート調査や個別相談などを実施し、顧客の意見を収集することで、解約理由を把握し、適切な対応策を講じることができます。
解約理由の分析と改善
解約した顧客の理由を分析し、製品やサービスの改善に活かします。顧客からのフィードバックを収集し、製品開発やカスタマーサポートに反映することで、今後の解約率を低下させることができます。
これらの施策は、それぞれ独立して行われるものではなく、互いに連携し、補完し合うものです。 カスタマーサクセスを通じて顧客との関係を強化し、アップセル・クロスセルによって顧客生涯価値を高め、プロアクティブな解約防止によって顧客維持率を高めることで、総合的にチャーンレートを改善し、持続的な成長を実現することができます。
ポイントは、顧客を理解し、顧客に寄り添い、顧客の成功を支援することです。 顧客中心のアプローチを通じて、顧客との長期的な関係を構築し、信頼関係を築くことが、チャーンレート改善の鍵となります。
ネガティブチャーンとは
ネガティブチャーンとは、新規顧客からの収益や既存顧客からのアップセル・クロスセルによって得られる収益が、解約による損失額を上回る状態を指します。つまり、顧客の解約があっても、収益全体としては増加している状態です。
ネガティブチャーンを実現するためには、前章「チャーンレート改善のための施策」で解説したように、顧客への価値提供を強化し、アップセル・クロスセルを促進することが重要です。また、解約の原因を分析し、プロダクトやサービスの改善に努めることも欠かせません。
ネガティブチャーンは、SaaSビジネスにおける理想的な状態であり、持続的な成長を実現するためには欠かせない要素と言えるでしょう。
SaaSマーケティングとチャーンレートの関係性
SaaSビジネスにおいて、マーケティングはチャーンレートに大きく影響します。効果的なマーケティング戦略によって、適切な顧客を獲得し、顧客満足度を高めることで、チャーンレートを抑制することができます。
例えば、ターゲット顧客を明確化し、そのニーズに合ったメッセージやコンテンツを提供することで、顧客満足度を高め、解約率を低下させることができます。また、顧客とのエンゲージメントを高めるためのコンテンツマーケティングや、顧客ロイヤリティを高めるためのリテンションマーケティングなども有効な手段です。
チャーンレート改善のためには、マーケティング戦略全体を見直し、顧客獲得から顧客維持まで一貫した戦略を構築することが重要です。詳細については、こちらの記事「BtoB SaaSマーケティング戦略とは?」も参考にしてください。
まとめ: チャーンレート改善の第一歩
この記事では、チャーンレートの基礎知識から具体的な改善施策、加えて、マーケティングとの関係性までを解説しました。チャーンレートは、SaaSビジネスの成長と収益に直結する重要な指標であり、その改善に向けて取り組むことは、企業の持続的な成長を実現するために欠かせません。
今日からできる第一歩として、まずは自社のチャーンレートを把握し、その要因を分析することから始めてみましょう。そして、この記事で紹介した施策を参考に、自社に合った改善策を検討し、実行してみるとよいでしょう。
チャーンレートの改善は、一朝一夕に効果が出るものではありませんが、継続的に取り組むことによって必ず成果を出すことができます。この記事が、自社のSaaSビジネスの成長を加速させる一助となれば幸いです。
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