現在SaaS市場は、急速に成長し、企業や個人を問わず多くの方がSaaSを利用しています。企業においては、SaaSに特化したマーケティングも重要な戦略となるので、しっかりと理解を深めておきたいところです。
そこで、この記事では、現代のSaaS製品のビジネスモデルを紐解きながら、SaaSマーケティング戦略策定時の重要ポイントや設定すべきKPI、戦略実行時の注意点など、BtoBのSaaS企業がマーケティングで意識すべきポイントを解説します。
BtoB SaaS企業が抱える、「有効商談につながるリード獲得が難しい」「マーケティングとセールス間の連携が不足している」「競争が激化する中、自社のSaaS製品の差別化に困っている」などの課題解決のヒントとして参考にしてください。
目次
SaaSとは
まずはSaaSについて、製品やサービスの具体例、従来型の売り切りモデルとの違いを紹介します。
SaaSとは、「Software as a Service」の略称で、インターネットを経由で提供されるクラウドベースのソフトウェアサービスを指す言葉です。多くの場合「サース」と読みますが、「サーズ」ともいわれます。
インターネット経由なので、どこからでもアクセスできる点や、複数人で情報を共有・共同作業できる点が大きなメリットです。近年浸透しているテレワークとも非常に相性が良く、自社の環境整備の必要なく、導入費用も抑えられるためSaaSを導入する企業は年々増えています。
SaaS製品・サービスモデルの具体例
SaaS製品やサービスの具体例として、下記のようなものがあります。
・ビジネスチャット(Slack、Chartworkなど)
・Web会議(Zoom、WebEXなど)
・オンラインストレージ(Dropbox、Google ドライブなど)
・タスク管理(Trello、Backlogなど)
・スケジュール管理(Google カレンダー、サイボウズなど)
・会計ソフト(マネーフォワードクラウド、freee会計など)
そのほかにも、GmailなどのWebメールや、Microsoft 365などのオフィスソフトなど、たくさんのサービスが業務や生活の一部として根付いています。
従来型の売り切りモデルとの違い
SaaS製品と従来型の売り切りモデルは、ソフトウェアサービスの販売方法や利用方法において、下表のような違いがあります。
SaaS製品・サービス | 従来型の売り切りモデル | |
販売形態 | サブスクリプション型 | ライセンス(買い切り)販売 |
支払い方法 | 月額料金や年額料金 | 一括払い |
所有権 | ベンダ(製造元や販売供給元) | 購入者 |
インストール | 不要 | 必要 |
アップデート | ベンダが自動的に更新 | 顧客が手動で更新 |
サポート | ベンダが行う | 購入者自身で行う |
利用デバイス | 同アカウントで別のデバイスからログインできる | インストールしたデバイスのみ利用可能 |
初期費用 | 比較的安価な場合が多い | 高額な場合が多い |
ランニングコスト | 月額料金や年額料金が発生 | なし |
拡張性(スケーラビリティ) | 用意 |
困難 |
SaaS製品と従来型の売り切りモデルの違いを比べると、SaaS製品には、下記のメリットがあります。
・初期費用を抑えやすい
・導入や運用の手間がかからない
・常に最新機能を利用できる
・場所やデバイスの制約がない
・拡張性が高い
これらのメリットを見ると、SaaS製品はオンライン上でのやり取りや、在宅ワークなどが増えた現代の働き方にマッチしやすいといえるでしょう。そのため、SaaS市場は今後ますます成長していくことが予想できます。
しかし、従来型の売り切りモデルにも、ランニングコストがかからない、オフラインでも利用可能、自社のサーバでデータを管理できる、などのメリットがあります。そのため、自社に合った製品を見極めた上で導入することが重要です。
SaaSマーケティングとは
SaaSのマーケティングとは、自社のSaaS製品・サービスを市場に認知させ、顧客を獲得し、継続利用をしてもらうために取り組むマーケティング活動のことです。
SaaS製品は、従来の売り切り型のソフトウェア販売とは異なり、サブスクリプション型(定期支払い、継続支払い)での提供が一般的です。そのため、顧客との長期的な関係を築き、継続課金を得ることが重要となります。
SaaSマーケティングの目的
SaaSマーケティングの主な目的は、見込み客(リード)を獲得し、製品・サービスを継続的に使い続けてもらうことです。
しかし、SaaS製品・サービスは、サブスクリプションサービスのため、実際に収益化するまでには時間がかかります。そのため、以下の4つのフェーズに沿ってマーケティングを行うと良いでしょう。
【SaaSマーケティングを行ううえでの4つのフェーズ】
ブランド認知度向上 | ターゲット市場における認知度を高め、自社のSaaS製品・サービスの存在を知ってもらう |
リードジェネレーション | 潜在顧客に認知をはかり、興味のある人を自社のSaaS製品・サービスの利用につながる見込み客(リード)にする |
リード育成(顧客育成、リードナーチャリング) | 見込み客(リード)の検討度合いを高め、SaaS製品・サービスの契約締結につなげる |
顧客維持 | 既存顧客との関係を強化して解約を防ぎ、アップセルやクロスセルを促進する |
これらの4つのフェーズには、最適なSaaSマーケティングの戦略や施策があります。具体的な戦略や施策については、記事後半の「SaaSマーケティングでの効果的なコンテンツ戦略」の章で解説します。
SaaS マーケティングのKGI、KPI
SaaSマーケティングを成功に導くには、施策ごとに成果を測定できる指標(KGI、KPI)が不可欠です。現状と目標を常に確認し、必要に応じて軌道修正することで、より効果的な施策を実行できます。
SaaSマーケティングを成功に導くには、施策ごとに成果を測定できる指標(KGI、KPI)が不可欠です。現状と目標を常に確認し、必要に応じて軌道修正することで、より効果的な施策を実行できます。
KGIとは、Key Goal Indicator(重要目標達成指標)の略で、企業やプロジェクトにおける最終的な目標や成果を示す指標です。
KPIとは、Key Performance Indicator(重要業績評価指数)の略で、マーケティング活動の効果を測定し、分析や評価をするために設定される指標のことです。
SaaSビジネスでの主要KGI 、SaaSマーケティングでの主要KPI、は次のとおりです。
【SaaSビジネスの主要KGI】
名称 | 概要 |
CAC (顧客獲得単価) |
1人の新しい顧客を獲得するために必要な合計費用。CACが低いほど、効果的に新しい顧客を獲得できていると評価できる。少ない予算で新規顧客を獲得できるため、高い収益性も見込める。 |
LTV (顧客生涯価値) |
1人の顧客が自社にもたらす利益の総額。LTVが高いほど、顧客1人あたりの収益性が高いと評価でき、CAC(顧客獲得単価)を回収しやすい。 |
MRR (月次経常収益) |
継続して得られる毎月の利益。MRRが高いほど、事業が安定していると評価できる。 |
Churn Rate (解約率) |
一定期間内に解約や退会した顧客の割合。Churn Rateが低いほど、顧客が満足している可能性が高く、長期的な収益性が見込めると評価できる。 |
【SaaSマーケティングの主要KPI】
名称 | 概要 |
CV数 | 目標とする行動(購入、資料請求、問い合わせなど)が発生した回数 |
CPA | 1CVを得るためにかかった費用 |
MQL | マーケティングにより、獲得した顧客のうち購入意欲が高く営業に引き継ぐべき、と判断された見込み顧客 |
SQL | 営業が、購入意欲や予算などを確認した上で、購入の可能性が高いと判断した見込み顧客 |
SaaSマーケティングを行う際に必要なKPIは、一般的なマーケティング指標と変わりありません。一般的なビジネスと同様になりますが、SaaSビジネス全体のKGIを達成するために、施策ごとのKPIがあることを意識する必要があります。KGIに対しての施策の貢献度を検証しながら、KPI自体の調整も慎重に行い、運用していくことが重要です。
なお、弊社メディックス実施の調査「SaaS BtoBマーケティング担当者アンケート調査結果(2024年版)」によると、マーケティング部門におけるKGIは「受注金額(26.4%)」が最も多く、次いで、「マーケティング施策経由の受注件数(14.0%)と続いています。
※クリックすると拡大表示されます。
KPIは、KGIと同様の項目が上位にありつつ、次いで「SQL(36.0%)「MQL(36.4%)と続いています。
※クリックすると拡大表示されます。
アンケートの詳細は、こちらでダウンロードできます。
SaaS BtoBマーケティング担当者アンケート調査結果(2024年版)
SaaSマーケティング戦略の策定
BtoBにおけるSaaSマーケティングの場合は、下記の4つのポイントを押さえることで、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
【SaaSマーケティング戦略策定の4つのポイント】
・ターゲットオーディエンスの理解
・明確な目標の設定
・競合分析の実施
・マーケティング戦略と他部門との連携
それぞれ順に説明します。
ターゲットオーディエンスの理解
SaaSマーケティングに関わらず、マーケティング戦略を立てる際は、ターゲットオーディエンスの理解が必要不可欠です。特定のターゲットオーディエンスを理解すれば、顧客のニーズや要望に合致したセグメンテーションやメッセージング、営業施策などの戦略を立てることができます。
ターゲットオーディエンスは、次のステップに沿って理解を進めます。
・理想的な顧客像(ICP)を明確にする
・ICPをもとに顧客のニーズや課題、行動を分析する
理想的な顧客像(ICP)を明確にする
ターゲットを理解するためには、まず、「理想的な顧客像(ICP)」を明確にします。ICPとは、BtoBで用いるペルソナ設定のことで、自社の製品・サービスを購入する可能性が高い理想的な企業像や顧客像を指します。
BtoBは、購買プロセス上に複数の関係者が存在するため、「担当者のICP」や「企業のICP」を作ると、顧客のニーズや課題をより的確に把握でき、より精度の高い顧客像を描き出せます。
次の「ICP項目表」は、理想的な顧客像(ICP)を作る際の参考にしてください。
【理想的な顧客像(ICP)の項目表】
企業像 | 個人像 |
・年間売上高 ・業界 ・営業年数、事業所数、従業員数 ・顧客規模 ・予算 ・技術レベル ・現在の課題など ・意思決定のプロセス など |
・役職 ・職種 ・年齢 ・家族構成 ・勤務年数 ・コアタイム ・現在の課題 ・情報収集の仕方 など |
ICPをもとに顧客のニーズや課題、行動を分析する
作成したICPをもとに、その顧客のニーズや課題、行動などを分析します。既存顧客のデータやインタビュー内容などをもとに、想定したICPが、どのように情報を収集し、どのような購買のプロセスを辿っているのか、加えてどんなニーズや課題を抱えているか、を分析・考察します。
この際に、ICPをもとにしたカスタマージャーニーマップを作成すると、より顧客の購買プロセスを可視化でき、戦略策定に役立つでしょう。また、ICPは常に変容する可能性があるため、定期的なアップデートが必要です。
明確な目標の設定
マーケティング戦略において、明確な目標を設定するのは非常に重要です。さらに、BtoBのSaaSマーケティングにおいては、マーケティング目標を全体的なビジネス目標と一致させることが必要不可欠です。下記で詳しく解説します。
マーケティング目標を、全体的なビジネス目標と一致させる
マーケティング目標と全体的なビジネス上の目標は、ズレが生じやすいものです。部署により、短期的な売上を重視する場合もあれば、長期的なリード育成を重視する場合もあるでしょう。また、経営者層と現場層でも、目標のズレが起きることは、よくあります。
目標や目的の認識がズレてしまうと、各部署や各担当者が優先する作業にもズレが生じます。結果、マーケティング施策全体にも支障が出てしまいます。
そのため、組織全体の方向性を明確に把握し、マーケティング目標とビジネス目標が一本のライン上にあることを確認しておきましょう。
なお、目標設定する際は、フレームワークを使うとよいでしょう。フレームワークを使うと、曖昧な目標が明確になる、達成の可能性を判断できるようになる、抜け漏れを防げる、などのメリットがあります。
ここでは、よく使われるフレームワークの1つ「SMART」を例示します。
【参考:SMART目標の項目】
項目 | 概要 | 方法 |
Specific (具体的) |
達成したい目標を具体的な言葉で設定する | 「いつ」「どこで」「誰が」「なにを」「なぜ」「どのように」の5W1Hの要素に沿って考えると作りやすい。できるだけ曖昧な言葉を避け、具体的な数値やアクションを入れる |
Measurable (測定可能) |
「Specific (具体的)」で立てた目標の進捗を測定できる指標を設定する | 中間地点などで、目標達成の進捗を「測定できる指標」を設定する。定性的なものは避け、数字で把握できる定量的な指標を設定する |
Achievable (達成可能) |
現実的に達成可能な目標を設定する | 高すぎたり低すぎたりする目標になっていないかをチェックしたり、挑戦的ではない達成可能な目標を設定する。今あるリソースや能力、この段階で不足しているリソースなども考慮し、不足分を補う施策も考える |
Realistic (関連性) |
立てた目標が、企業や個人のミッション、利益と紐づける | 組織全体のビジョンと目標を関連づけ、担当者のキャリアや給与など、個人の利益とも紐づく目標となっているかを確認する。 関連性がない場合は、紐づける |
Time-bound (期限) |
具体的な期限を設定する | 達成する期限を具体的な日程で設定する。期限までに目標を達成するためのスケジュールやマイルストーン(中間目標地点)なども合わせて決定する |
競合分析の実施
近年のBtoBのSaaS企業は、急速な市場拡大と新規参入の増加によって競争が激化しています。ライバル他社に一歩先んじたマーケティング施策を打つためにも、競合分析は必須です。競合分析を実施する際は、主要な競合相手の見極めと、自社製品との差別化がポイントとなります。
主要な競合相手を特定し、その強みや弱みを評価する
競合分析の際は、まず、自社と類似したSaaS製品・サービスを提供する競合企業を特定し、その強みや弱みを洗い出します。このとき、製品・サービス内容が類似した「直接競合」だけではなく、製品やサービスは違うものの、顧客へ同様のメリットを提供している「間接競合」もピックアップしてください。また、次のポイントを評価軸に据えると分析しやすいでしょう。
【競合分析のポイント】
製品・サービス関連 | 機能、価格、サポート体制など(顧客が重要視するポイントを念入りに) |
マーケティング関連 | 広告、LP、リード獲得プロセス、Webサイトの内容、利用ツールなど |
営業関連 | 営業戦略、顧客基盤など |
自社SaaS製品・サービスを競合と「差別化」する
洗い出した競合相手の特長と自社SaaS製品・サービスの特長を比較し、差別化ポイントを明確にします。次の点に着目すると、差別化の切り口を見つけやすいでしょう。
【差別化の着目点】
独自の機能 | 競合にはない独自の機能・特長を明確にする 例)自社開発の機能、自社特有のカスタマイズ性など |
専門性 | 他社よりも優れたサービスや技術などの専門性をアピールする 例)セキュリティ対策への特化、特定地域への特化、業界特有の資格取得など |
顧客サポート | 充実したサポートやアフターフォロー体制を打ち出す 例)ユーザビリティに優れている、トレーニングや教育プログラムの提供など |
信頼性を高める指標 | 他社にはない取引実績数や年数、国際標準規格に準拠している点などを提示する 例)Webサイトに証明書を提示するなど |
コスト効率 | 競合よりも、様々な点から見たコスト削減を提案する 例)スケーラビリティの柔軟性をアピールするなど |
マーケティング戦略と他部門との連携
SaaSビジネスでは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった各部門が、それぞれ異なる役割とKPIを持ちながら連携し、顧客を育成・獲得・維持する必要があります。
特に重要なのは、「一貫性のある顧客エンゲージメント」です。顧客が最初に触れるマーケティングコンテンツから、インサイドセールスとのやり取り、フィールドセールスによる提案、そして、カスタマーサクセスによるサポートに至るまで、一貫したメッセージと体験を提供することが、顧客満足度の向上とLTV(顧客生涯価値)の最大化につながります。
マーケティング部門は、ターゲット顧客のペルソナを明確にして、魅力的なコンテンツを制作し、広告を通じて潜在顧客にアプローチします。
インサイドセールスは、マーケティングで獲得したリードに対して、電話やメールでコミュニケーションを取り、商談設定を目指します。
フィールドセールスは、インサイドセールスで温まったリードに対して、対面で提案を行い、契約締結を目指します。
カスタマーサクセスは、契約後の顧客に対して、製品の有効活用方法を支援し、長期的な関係構築を図ります。
SaaSマーケティング戦略の実行
ここからは、より現場レベルのSaaSマーケティング戦略・実行に役立つ概念やノウハウをお伝えします。
魅力的な価値提供の策定
SaaSマーケティングで最初に実行することは、「魅力的な価値提供の策定」です。戦略策定時に設定したICP(理想的な顧客像)が「魅力的だ」と感じ、思わず購入や問い合わせをしてしまうような価値提供の内容や方法を考えていきましょう。
自社のSaaS製品・サービスの独自性を明確に伝える
自社が提供するサービスの価値訴求を行う際は、「他社との違い(独自性)を明確に、わかりやすく伝えること」が重要です。他社との比較表や、これまでの取引実績などの定量的なデータをまとめたグラフ、第三者の調査機関が発行する証明書などを示し、「明確に、わかりやすく伝えること」に注力してください。
BtoBマーケティングでは、購買プロセスの中に必ず、「比較検討」のフェーズが入ります。この場面をシミュレーションしながら、設定したICPが、どのように他社と自社を比べているか、どのような示し方なら魅力を感じるか、どんな点に重点を置いているのか、をイメージします。例えば、想定したICPが魅力的だと感じる独自性に基づいたメッセージングやデザインを用いるなども有用です。
自社のSaaS製品・サービスが、顧客の課題をどのように解決するのか説明する
独自性と併せて、自社SaaS製品・サービスが、顧客の課題を、どのようなフローや手段で解決するかも、わかりやすく示すと良いでしょう。ICPの業務プロセスや人的リソースにマッチする解決手段となっているか、現状不足しているリソースを補う解決方法になっているかなど、顧客が購入時に抱える不安をすべて解消できると伝えることが重要です。時系列や事例などを活用しながら、聞き手がイメージしやすい説明手段を選びましょう。
この際に顧客が抱きそうな小さな疑問や反論を、FAQ(よくある質問)という形で伝えるのもよいでしょう。また、顧客が自社SaaS製品・サービスの導入より得られるベネフィットを具体例に関連づけて伝えたり、既存顧客の成功事例などを、ストーリーテリングなど用いて説明したりすると、顧客の共感を得やすくなります。
強力なブランドアイデンティティの構築
すべてのチャネルで、一貫したブランドボイスとメッセージングを確立する
ブランドアイデンティティとは、顧客に持ってもらいたい理想的なイメージのことで、魅力を正しく伝えて、長く愛されるためには欠かせない要素です。
強力なブランドアイデンティティの構築には、全チャネル(顧客との全接点)での一貫したブランドボイスとメッセージングが大切です。ブランドボイスとは、トーンや言葉遣いや表現ことで、メッセージングとは、企業が顧客に意図的に伝えたい具体的なメッセージです。製品やサービスの特長、企業理念、顧客への約束などが含まれます。
これらの要素を、すべてのチャネル(広告、Webサイトのブログ記事、営業メール、サポートチャットなど)で一貫して表現することにより、顧客はブランドに対して明確なイメージを持つことができ、信頼や共感を築きやすくなります。
【一貫したブランドボイスとメッセージングの例】
ブランドボイス | メッセージング |
専門的でフォーマルなトーンにより専門用語を多用しながら正確で簡潔な言葉遣いに統一 | データや事実に基づいた説明に統一 |
親しみやすく協力的なトーンで、顧客の立場に立ったわかりやすい言葉遣いに統一 | 事例やストーリーテリングを用いてわかりやすさを重視した説明に統一 |
視覚的に魅力的で認識しやすいブランドアイデンティティを作成する
デザインや色などの目から入る情報も、ブランドアイデンティティの強化に役立ちます。ブランドロゴやブランドカラー、タイポグラフィなどを統一するためのデザインに関するブランドガイドラインを策定し、関係者と共有すると良いでしょう。
効果的なマーケティングチャネルの活用
より多くのターゲット顧客と出会うには、効果的なマーケティングチャネル(流入経路)の活用が重要です。マーケティングチャネルを活用すると、集客力が高まり、ブランド認知の向上やリード獲得を実現できます。
オーガニックチャネルからの流入と有料チャネルからの流入、両方のマーケティングチャネルを組み合わせる
ターゲットオーディエンスにリーチする際は、有料・無料と切り分けず、両方のチャネルを組み合わせて利用する方が効果的です。なぜなら、それぞれのチャネルにしかいない、異なるオーディエンスが存在するからです。
【マーケティングチャネルの特徴】
オーガニックチャネル | 有料チャネル |
長期的なブランド構築や信頼向上に繋がる 例)コンテンツマーケティングやソーシャルメディアマーケティング、検索エンジン最適化(SEO)など |
迅速なリード獲得や認知拡大に繋がる 例)リスティング広告やSNS広告などを |
オーガニックチャネルと有料チャネルの両方の長所を最大限に活かせるよう、チャネル活用を検討してみるとよいでしょう。
続いて、効果的なマーケティングチャネルの活用事例も紹介します。
メディックスの事例紹介:刈り取り施策の改善によるCVの最大化
※クリックすると拡大表示されます。
HRTech系のSaaS商材を扱う企業の事例です。MQL 獲得数を増やす施策(資料請求からのリード獲得)を実施したところ、CPA(顧客獲得単価)を抑えたまま、導入意欲の高いターゲット層(MQL)の獲得に成功しました(コンバージョン数がプラス72件に)。
Google広告やYahoo!広告といった有料チャネルを活用した事例です。
この活用事例をより詳しい内容は、こちらよりご覧いただけます。
https://btob.medix-inc.co.jp/bm_site_ourbusiness/saas/
見込み客(リード)育成
BtoBのSaaSマーケティングで成功するには、見込み客(リード)育成は不可欠な要素です。
リード育成(顧客育成、リードナーチャリング)とは、DMやメールなどの様々な手段を通じて、見込み客(リード)と定期的な接点を持ち、信頼関係を築きながら購買意欲を高めるマーケティング手法です。
リード育成は、単にリードに情報を提供するだけでなく、それぞれの顧客の状況やニーズに合わせた最適なアプローチを行うことが重要です。具体的なシナリオは、次の要素を考慮して作成します。
・製品・サービスの特徴
どのような課題を解決するのか、どのような価値を提供するのか
・リードの購買ファネル上のポジション
認知段階なのか、検討段階なのか、購入意思決定段階なのか
・リードが求める情報
課題解決に関する情報なのか、製品・サービスの詳細情報なのか、導入事例なのか
SaaSマーケティング戦略の測定と最適化
SaaSマーケティング戦略を成功させるには、「効果測定」と「最適化」も外せない要素です。ここでは、マーケティングの効果を測定するための、パフォーマンス指標の追跡、データ分析について紹介します。
主要なパフォーマンス指標(KPI)の追跡
有料広告キャンペーンやSEO対策など、様々なマーケティング施策を実行する際には、効果測定は欠かせません。効果測定によって、施策の成果を客観的に把握し、改善点を特定できます。
具体的には、その施策に関連するKPIを特定して追跡します。追跡すべき主要KPIは、第2章「SaaSマーケティングのKGI、KPI」で挙げたもののほか、施策ごとの成果を測定するために設定します。例えば、Webサイトのトラフィック(訪問者数、滞在時間、離脱率など)や各種コンバージョン率、リード獲得数、有効商談数などが挙げられます。これらの指標を、Googleアナリティクスやマーケティングオートメーションツール、営業支援ツールなどを活用して、定期的に追跡・測定しましょう。
データ分析と調整
マーケティングデータを定期的に分析し、トレンドや改善点を見つける
蓄積されたマーケティングデータを定期的に分析し、施策ごとの効果や改善点を把握して、マーケティング施策の調整を行います。具体的には、
・Webサイトのアクセス解析データ
ターゲット顧客の属性や興味・関心、行動パターンなどを分析し、より的確なターゲティングを実現
・メールマーケティングの開封率やクリック率
顧客の反応を分析し、より魅力的なコンテンツや効果的な配信方法を検討
・ソーシャルメディアのエンゲージメント指標
顧客の反応や口コミを分析し、ブランドイメージや顧客満足度の向上につなげる
などです。
マーケティングデータ分析は、PDCAサイクルを回すための重要な鍵です。データを定期的に分析し、結果に基づいて施策を改善することで、マーケティング活動の成果を最大化させましょう。
マーケティングデータとセールスデータを連携
BtoBのSaaSマーケティングの場合、マーケティングデータとセールスデータの連携は重要です。リード獲得から成約までの全体像を把握でき、データ上での可視化が困難だった営業施策の効果測定が可能になるからです。マーケティング・営業のプロセスを問わず、どの施策が成果に寄与しているかも分析できます。
しかし、多くの企業は、マーケティングデータとセールスデータの連携ができておらず、適切な投資チャネルや投資額が判断できない状態です。SaaSマーケティング全体の費用対効果を可視化できれば、データに基づいた精度の高い意思決定を行うことができ、包括的なSaaSマーケティングの最適化を実現できます。これにより、投資した費用に対して、どれほどの利益を上げたのかを示す指標であるROI(Return on Investment)も、最大化していきます。
メディックス事例紹介:データ連携によって効果を可視化することで、有効リード数が多い広告に予算を寄せて最適化をかける運用を実現
人材サービス業のSaaS企業が、マーケティングデータとセールスデータを連携し、有効リード数を2.6倍増、商談数を5.7倍に増やすことに成功しました。
具体的には、Webサイトのデータ(Googleアナリティクス)、Google広告やMeta広告などの広告データ、営業データ(Salesforceなど)を連携し、デジタルマーケティング全体を通した広告効果を見える化。その結果、有効リード数の多い広告が判別でき、そこに広告予算を寄せて最適化した運用を行うことで、成功につながりました。
※クリックすると拡大表示されます。
この事例のより詳しい内容は、下記よりご覧いただけます。
https://btob.medix-inc.co.jp/bm_site_ourbusiness/saas/
BtoB市場でのSaaSマーケティング戦略立案
ここでは、BtoB市場でのSaaSマーケティング戦略について紹介します。
BtoB市場における施策ごとのターゲット適応
SaaSマーケティングをBtoB市場に適応させるには、ターゲットと購買プロセスに合わせたメッセージングを用意するのがよいでしょう。なぜなら、ターゲットによって抱える課題や重視する点が異なり、購買フェーズによって知りたい情報も変化するため、同様のメッセージングが通用しないケースもしばしば発生するからです。また、BtoBの場合、投資対効果(ROI)の明確な証明が求められることも多いため、この点を踏まえたリード育成(顧客育成、リードナーチャリング)などのSaaSマーケティング施策が有用でしょう。
例えば、大企業は、データに関するセキュリティとコンプライアンスを非常に重視します。そのため、自社の製品・サービスがエンタープライズ企業のセキュリティやコンプライアンスの要件をどのように満たしているのか、明確に提示しながら、ターゲットが抱える懸念を払拭することが必要です。
他社との競合に立ち向かう方法
他社との競争に立ち向かうには、市場の変化をいち早く察知し、差別化された開発やマーケティング施策をスピーディーに実行しなければなりません。
これらを実行ベースに落とし込むには、「適切な競合調査」が不可欠です。「3C分析」「SWOT分析」「4P分析」などのフレームワークを活用しながら、より実効の高いリサーチを行うとよいでしょう。
3C分析 | 3Cは、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の略。 3つの要素を分析することで、市場における自社の立ち位置を明確にするフレームワーク。 |
SWOT分析 | SWOTは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の略。 4つの要素を分析することで、自社の状況と外部環境を総合的に把握し、戦略を策定するフレームワーク。 |
4P分析 | 4Pは、Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の略。 4つの要素を分析することで、具体的なマーケティング施策を立案するフレームワーク。 |
競合分析ができたら、リード育成(顧客育成、リードナーチャリング)シナリオを考えましょう。この場合、カスタマージャーニーマップを活用するのが有効です。カスタマージャーニーマップとは、顧客が製品・サービスを購入に至るまでの行動や心理を可視化したものです。
カスタマージャーニーマップを活用することで、リードがどのような情報を求めているのか、どのようなタイミングでアプローチするのが効果的なのか、をより深く理解することができます。
また、マーケティングオートメーションツールを使うと、顧客それぞれに合わせたコンバージョン促進が可能です。例えば、顧客の行動履歴や興味・関心に応じて、個別に訴求力のあるメールやコンテンツを配信できます。これにより、SaaSマーケティングの効率化と同時に、コンバージョンを促進することができます。
カスタマージャーニーマップに関しては以下コンテンツもご覧ください。
カスタマージャーニーとは?基礎知識から必要性、事例、作り方までわかりやすく解説!
SaaSマーケティングでの効果的なコンテンツ戦略
コンテンツマーケティングは、BtoBのSaaSマーケティングに大きな影響を与えます。それは、BtoB SaaSマーケティングの鍵となる「ブランド認知の拡大」「リード獲得」「リード育成」「顧客ロイヤリティの向上」などの基盤を構築できるからです。
オウンドメディアとの連携方法
オウンドメディアとは、自社が所有するコンテンツメディアのことです。SaaSマーケティングとオウンドメディアを連携させると、ターゲット顧客の購買意欲が高まる前段階、またはリサーチの段階からのタッチポイントを作れます。
また、上位の意思決定者の決断材料にもなりうるため、自社オウンドメディアを長期的に育て、製品・サービスの名称や自社の名称などで検索した際に、上位表示される状態を目指すとよいでしょう。
【SaaSマーケティングにおける、オウンドメディアとの連携方法・具体例】
ブログ記事 | ターゲット企業が興味・関心を持つ業界の動向やノウハウ記事を掲載し、価値提供を行う (SEO施策やSNSマーケティングを併用すれば、リード獲得・認知拡大にもつながる) |
ホワイトペーパーやeBOOK | SaaS製品・サービスの導入事例やガイド、独自ノウハウや調査結果をまとめたレポートなどを作り、リード獲得の材料として、オウンドメディア上でダウンロードを促す |
動画 | 製品デモやお客様インタビュー、ウェビナーなどを録画して公開し、オウンドメディア上で視聴できるようにする(文章以外の訴求アプローチを加える) |
メールマーケティングの手法
メールマーケティングは、リード獲得やリード育成(顧客育成、リードナーチャリング)につながる内容を実装しやすく、費用対効果が極めて高いSaaSマーケティング手法の1つです。メールの配信などの運用・管理は、マーケティングオートメーション(MA)ツールやメール配信ツール、CRMツールなどで行えます。
メールマーケティングの主な流れは、次の通りです。
【メールマーケティングの流れ】
リード獲得 | オプトインフォームを利用して、潜在顧客のメールアドレスを収集する |
リード育成 | 有益なコンテンツで価値提供したり、比較材料を提示したり、ターゲットオーディエンスの要望や興味・関心にマッチしたメールを配信する |
顧客ロイヤリティの向上 | 既存顧客への製品の更新に関するフォローアップ通知や、特典・イベント告知などに関するメールを配信する |
メールマーケティングを行える大半のツールは、精度の高いセグメント配信や自動化、クリック数などの分析も可能です。開封率やコンバージョン率などを測定しながら、内容や配信頻度の改善もできるため、顧客との関係構築やコンバージョン促進にも大いに役立ってくれるでしょう。
メールマーケティングに関してはこちらの記事もご覧ください。
BtoB企業にメールマーケティングが必要な理由とは?取り組む手順も解説
コンテンツ制作のポイント
コンテンツを作成する際は、「一貫性」を重視してください。コンテンツマーケティングにありがちな失敗の原因には、一貫性や関連性のなさにあります。
【コンテンツマーケティングにありがちな失敗パターン】
・突発的かつ不定期配信のコンテンツ提供で、まとまりがない
・部門間の連携がとれておらず、質の高いコンテンツを作っても有効活用されていない
・コンテンツの質がまちまちで、低品質のコンテンツを量産していることも
・コンテンツが古く、現在のターゲットに最適な内容になっていない(整合性がとれていない)
BtoBの販促プロセスには、関係者が複数人おり、顧客とのタッチポイントも多くあるため、一貫性のなさが表面化しやすく、それが顧客に違和感として伝わってしまうこともあります。また、どれだけ現場の担当者が気に入ったとしても、最後の意思決定者が、たまたま整合性のとれていないコンテンツに触れれば、成約につながらないこともあるでしょう。
そのため、一貫性のあるコンテンツ制作が非常に重要です。また、更新などのテコ入れも一貫したコンテンツ制作の大切な工程です。
【一貫性のあるコンテンツ制作のポイント】
・ ICP(理想的な顧客像)に添ったコンテンツ制作をする
・トーン&マナーなどに一貫性を持たせ、ブランド力を強化する
・ コンテンツカレンダーや各種ツールなどを活用して、定期的なコンテンツ提供を実現する
コンテンツマーケティングについてはこちらの記事もご覧ください。
BtoBにコンテンツマーケティングをおすすめする理由3つと、失敗に終わってしまうケース
SaaSマーケティングの新たな展開と今後の展望
最後に、マーケティングの新たな展望や今後の展望について解説します。
SaaSマーケティングの将来性
SaaS市場は近年、目覚ましい成長を遂げています。しかし、その成長の裏側には、激化する競争という厳しい現実が存在します。近い将来、より過当競争に突入する市場だからこそ、ユーザ獲得の最大化だけではなく、「カスタマーサクセスによるLTVの最大化」との両輪で、SaaSマーケティングの戦略を策定し、マーケティング施策を実施していくことが求められます。
SaaS企業とカスタマーサクセスの詳細は、こちらのウェビナーレポートをご覧ください。
【セミナーレポート】顧客との関係性を深めるカスタマーサクセスとは?~コミュニティタッチ徹底解説~
メディックスでは、SaaSマーケティングに特化した専門チーム「SaaS Growth Partners」が、SaaS企業の成長に寄り添うマーケティングパートナーとして、ユーザー獲得とLTVの最大化の実現をワンストップで伴走支援しています。
※クリックすると拡大表示されます。
メディックスは、450社の支援実績によって培われた経験とナレッジに加え、新たなサービス開発と従来サービスの強化により、マーケティングデータと営業データの統合など、充実した支援の成果も上がっています。
効果的なSaaSマーケティングやカスタマーサクセスによるLTVの向上などにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
ユーザ獲得とLTVの最大化をワンストップで実現できるSaaS特化デジタルマーケティング・カスタマーサクセス支援については、こちらよりご覧いただけます。
https://btob.medix-inc.co.jp/bm_site_ourbusiness/saas/
まとめ
SaaSマーケティングは、BtoBのSaaS企業が成功する上で不可欠な手法です。しかし、「広告展開を行っているが、成果につながらない…」「リード育成(顧客育成、リードナーチャリング)が難しい…」「有効商談につながるリード獲得ができない…」などの悩みも少なくありません。
BtoB SaaSマーケティングを成功させるキーポイントは、「質の高いリード獲得」と「LTVの最大化」です。これらを実現するための、戦略策定の方法や施策のポイントを本文で解説しました。
近い将来、より過当競争に突入するSaaS市場だからこそ、ユーザ獲得の最大化とカスタマーサクセスによるLTVの最大化との両輪による、SaaSマーケティング戦略を取り入れてみてはいかがでしょうか。
※本記事に掲載の製品・サービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
関連記事
ユニットエコノミクスとは?計算方法や目安、マーケティング担当者が把握する意味