
「自社の製品やサービスは、AIの回答に出てくるのかな」。そんな疑問を感じたことはないでしょうか。
顧客の情報収集は、検索エンジンからAIへと広がり始めています。ChatGPTやGemini、Copilotなどに直接たずね、候補を絞る。製品を選ぶ人たちは、すでにそう動き出しています。
こうした変化に対応するのが、AI検索対策(大規模言語モデル最適化:Large Language Model Optimization)です。ただ、対策のための専門的な技術論の前に、まず知っておきたいことがあります。それは「自社の顧客が、実際にAIをどう使っているか」です。
この記事では、2026年3月に実施した、製造業製品の選定者793名への独自調査と、マーケティング業務に関与した製造業従事者129名への独自調査をもとに、顧客のAI利用の実態と、製造業がとるべき備えを解説します。なお、AI検索対策を含む製造業のマーケティングの全体像は、別の記事でまとめて解説しています。
なお筆者は、メディックスで製造業のBtoBマーケティング支援に携わり、note等でも継続的に発信しています。現場で見てきた視点も交えてお伝えします。(筆者プロフィールはコラム下部に記載)
※本記事で引用している調査の概要(調査名・対象・期間など)は、記事末尾の「調査概要」に記載しています。
製造業の顧客は、すでに生成AIで製品を選び始めている
AI検索対策を考える前に、事実を確認しておきます。製造業の製品を選ぶ人たちは、もう生成AIを製品選定に使っています。生成AIの活用は印象論ではなく、調査で裏づけられた事実です。
当社が製造業製品の選定者793名に行った調査では、製品を検討する各段階で生成AIをどう使っているかを尋ねました。すると、認知のきっかけの段階から最終選定にいたるまで、あらゆる段階で生成AIが使われていることがわかりました。(当社「製造業製品選定者アンケート調査」2026年版、n=793)「まだ一部の先進的な人だけ」という段階は、すでに過ぎています。
顧客は「候補選び」も「比較」もAIに任せ始めている
注目すべきは、その使い方です。顧客は生成AIを、単なる調べ物ではなく、選定作業そのものに使っています。認知のきっかけの段階での用途を見ると、上位は次のとおりでした(同調査、n=793)。
- ・製品のリストアップ:46.15%
- ・評判・口コミの要約:43.59%
- ・市場トレンドの把握:39.74%
- ・製品の比較表の作成:37.82%
「どんな製品があるか」をAIにリストアップさせ、「どれがよいか」の比較表をAIに作らせ、「実際の評判」をAIに要約させる。かつて自社サイトやカタログ、営業担当が担っていた役割の一部を、生成AIが引き受け始めているのです。
図① 製造業製品選定者の「認知のきっかけ」フェーズにおける生成AI活用用途
出典:株式会社メディックス ビジネスマーケティングユニット「【2026年版】製造業製品選定者アンケート調査」(n=793)
ここで、作り手であるマーケター側の実感も添えておきます。当社の別の調査では、製造業のマーケティング担当者自身も、生成AIの普及でマーケティングが「難しくなった」と感じていました。(当社「BtoBマーケティング担当者アンケート調査」2026年版、n=129)買い手が動き、売り手もその変化を肌で感じています。以上が今の状況です。
図② 製造業マーケティング担当者が感じる、生成AI普及によるマーケティング活動の難易度の変化
出典:株式会社メディックス ビジネスマーケティングユニット「【2026年版】BtoBマーケティング担当者アンケート調査」(n=129 ※製造業従事者のみ)
顧客のAI活用が意味すること
Harvard Business publishing社の調査では、2012年の段階で、BtoBの購買プロセスの57%が、営業に会う前に終わっているとされていました。それから、10年以上経ちました。AI時代の今、顧客は商談前にオンライン上で、さらに詳細な情報収集をしています。営業と会う前のAI、オンライン接点の量と質が、その後の商談を左右する決定的な要因になるのです。
図③ BtoB購買プロセスの変遷イメージ
出典: Harvard Business publishing社 Harvard Business Review (2012年7月~8月号)“The End of Solution Sales”
顧客が製品選びにAIを活用している以上、AIが生成する回答の中に自社の製品名や技術が登場しなければ、顧客の検討候補にすら入れません。従来、検索結果の上位を取れば見つけてもらえました。これからは、AIの回答に「選ばれ、引用される」ことが、新しい入口になります。
では、そのために何をすればいいのか。次章から、AI検索対策(LLMO)の考え方を具体的に見ていきます。
なお、製造業の顧客がどの段階でどう動くのか、購買プロセス全体については、製造業のマーケティングの基本と全体像を別の記事で解説しています。
なぜ製造業でAI検索対策(LLMO)が必要なのか
顧客が生成AIで製品を選び始めている。選定行動の変化から導かれる結論はシンプルです。AIの回答の中に自社が登場しなければ、顧客に見つけてもらえない。だからAI検索対策が要る、ということです。もう少し具体的に、2つの角度から見ていきます。
AIが「候補リスト」を作る側に回った
これまで、製品の候補を挙げるのは顧客自身でした。検索して、いくつかのサイトを見て、候補を書き出す。その過程で、自社サイトが上位に表示されれば候補に入れました。
いまは、その候補出しをAIが代行します。顧客が「〇〇に使える製品を教えて」とAIに聞けば、AIが候補を並べます。ここで自社の名前が挙がらなければ、顧客はそもそも自社の存在に気づきません。検索結果の1ページ目に入るかどうか以前に、AIの回答に入るかどうかが問われるようになったのです。
候補集めの段階への対応は、BtoBの購買で特に重要です。製造業の検討は長く、複数の担当者が関わります。入口の「候補集め」の段階でAIに拾われるかどうかが、その後の検討に残れるかを左右します。
検索しても、クリックされない
もう一つの変化が、GoogleのAI Overviews(検索結果に表示されるAIの要約)です。顧客が検索しても、AIの要約だけで答えが完結し、個別のサイトへ進まないことが増えています。
つまり、検索で上位に表示されていても、クリックされずに終わります。従来のSEOで上位を取るだけでは、流入が細っていく可能性があります。表示されるだけでなく、AIの要約に自社の情報が使われる状態を目指す必要が出てきました。
検索エンジンとAIの両方に向き合う考え方の全体像は、AIに指名されるBtoB企業のLLMO対策⧉をnoteの記事で定義しています。あわせて、AI対策の土台となる検索エンジン対策そのものについては、製造業のSEO対策の記事も参考になります。
製造業がやるべきAI検索対策(LLMO)の進め方
AI検索対策と聞くと、何か特別な技術が必要だと身構えるかもしれません。ですが、実のところ出発点は、これまでのSEOで求められてきたことと大きくは変わりません。テキストで正確な情報を、わかりやすい構造で発信する。情報発信の基本の延長線上に、AI対策はあります。AIも、人が読みやすく整理された情報を手がかりにするからです。
その上で、製造業ならではの勘所が4つあります。
1:技術情報を「テキストで」構造的に持つ
製造業でありがちなのが、仕様やスペックをPDFカタログや画像だけで持っているケースです。人は図を見て理解できますが、AIは画像の中の文字を十分に読み取れないことがあります。製品の仕様、対応できる加工精度、適合する規格。こうした技術情報を、Webページ上にテキストとして、項目を整理した形で載せておく。テキスト化と構造化が、AIに正しく認識される第一歩です。
2:顧客の「課題」に答えるコンテンツを持つ
顧客がAIに聞くのは、製品の機能やスペックだけではありません。「この材料の加工でこういう不具合が出るが、どう解決するか」といった、課題ベースの問いも投げます。課題ベースの問いに答える技術記事やトラブル解決コンテンツを持っていれば、AIが回答を組み立てる際に、自社の情報が引用されやすくなります。自社の技術が「どんな課題を解決できるか」を言語化することは、AI対策であると同時に、サイト訪問者のUX(顧客体験)を向上することにもなります。
3:一次情報と実績で「専門性」を示す
AIも検索エンジンと同じく、信頼できる発信元の情報を優先します。ここで効くのが、独自調査データ、具体的な導入事例、数値を伴う実績です。どこかで見たような一般論ではなく、自社にしかない一次情報を持つ企業ほど、AIに引用される可能性が高まります。この記事が製造業の調査データを繰り返し示しているのも、同じ考え方に基づいています。
4つの勘所はいずれも、AI専用の小手先の対策ではありません。良質な情報を正しく発信するという、本質的な整備です。AI時代にBtoB企業が「指名される」ための考え方の全体像は、AIに指名されるBtoB企業のLLMO対策⧉をnote記事で詳しく定義しています。
4:自社サイトの外へ出て、第三者に語ってもらう
ここまでの3つは、主に自社サイト(オウンドメディア)の中でできる対策でした。ですが、AI検索対策では、もう一歩踏み込む必要があります。自社の外に出ていくことです。
理由は、AIが「誰が言っているか」を重視するからです。同じ内容でも、一メーカーが自社サイトで「当社の技術は優れています」と語るのと、専門メディアや第三者の専門家が「この分野ならこの会社だ」と語るのとでは、AIから見た信頼性が違います。自社で言えることには限界があり、他者からの評価のほうが、権威性の裏づけとして強く働きます。
ここで参考になるのが、PESOモデルという考え方です。企業が使えるメディアを、Paid(広告)、Earned(報道・取材)、Shared(SNS)、Owned(自社サイト)の4つに分ける整理です。多くの製造業は、Owned(自社サイト)に閉じがちです。しかしAI時代には、専門メディアへの寄稿や取材、業界イベントでの登壇、SNSでの発信といった、Owned以外の場に自社の名前と知見を露出させることが、AIに引用される土台になります。
図④ PESOモデル
そして、「自社の外で専門家として認知される」取り組みは、ソートリーダーシップ戦略と密接に関わります。特定の領域で独自の見解を発信し、その分野の第一人者として認知される。専門家としての立ち位置を築くことが、価格競争から抜け出す力にもなり、同時にAIから「この分野の権威」として引用される可能性を高めます。ソートリーダーシップについては、製造業のソートリーダーシップ戦略をテーマにしたセミナーのレポートで詳しく紹介しています。あわせて、その思想的な背景は、スペック競争を抜け出すソートリーダーシップの思想⧉をnoteの記事で論じています。
ただし、AIに頼りすぎてはいけない:製造業製品の購買プロセス
ここまでAI検索対策の重要性を述べてきました。ですが、最後に強調しておきたいことがあります。それは「AIがすべてを決めるわけではない」という事実です。AI対策に前のめりになるあまり、AIの限界を見落とすと、打ち手を誤ります。同じ調査データが、その理由を示しています。
検討が進むほど、AIの出番は減っていく
先ほどの当社の製造業製品選定者調査(n=793)を、フェーズごとに見直してみます。情報収集源に、生成AIを選んだ人の割合は、1次選定フェーズをピークに、最終選定に近づくにつれて減っていきます。(当社「製造業製品選定者アンケート調査」2026年版、n=793。生成AI利用者は1次選定フェーズ17%に対し、最終選定フェーズ13%)
顧客は、候補を広く集める序盤ではAIを積極的に使います。しかし、最終的にどれを選ぶかを決める終盤では、AIから離れていきます。
AIの代わりに、選定フェーズが後半になるほど、「ベンダー・メーカーの営業担当」や「自社内の他部門へ相談する」の割合が多くなります。(当社「製造業製品選定者アンケート調査」2026年版、n=793。「ベンダー・メーカーの営業担当」は、認知のきっかけフェーズ13%に対し、最終選定フェーズ20%、「自社内の他部門へ相談する」は、認知のきっかけフェーズ9%に対し、最終選定フェーズ13%)
図⑤ 選定フェーズ別 情報収集源
出典:株式会社メディックス ビジネスマーケティングユニット「【2026年版】製造業製品選定者アンケート調査」(n=793)
最後の意思決定は、いまも「人」が担っている
では、終盤で顧客は何を頼りにするのか。当社の調査では、検討が最終段階に近づくほど、ベンダーの営業担当や、社内・取引先といった人的な情報源の比重が高まる傾向がありました。金額が大きく、失敗が許されない製造業の購買では、最後はやはり人が確かめ、人が判断します。人が判断する構造は、AIが普及しても簡単には変わりません。
生成AIは、候補を集め、比較し、情報を整理する序盤の作業には強みがあります。けれど、「本当にこの会社に任せて大丈夫か」を見極める最終局面では、人と人とのやり取りが決め手になります。AIに要約されただけの会社と、担当者が実際に会って信頼を勝ち取った会社。最後に選ばれるのは、多くの場合、後者です。
だから、AI対策とリアルの商談は「両輪」で考える
結論はシンプルです。AI検索対策は、顧客に見つけてもらい、候補に入るために欠かせません。一方で、候補に入った後、最終的に選ばれるためには、従来どおりの営業や商談、信頼構築が要ります。
AI対策だけに偏っても、リアルの商談だけに頼っても、成果にはつながりません。序盤はAIに拾われる仕組みを整え、終盤は人が信頼を勝ち取る。両輪をそろえることが、AI時代の製造業マーケティングの現実解です。
まとめ:AI検索対策は必要だが十分ではない
製造業のAI検索対策(LLMO)について見てきました。最後に要点を整理します。
顧客はすでに、生成AIで製品の候補を集め、比較し、口コミを要約させています。だからこそ、AIの回答に自社が登場し、引用される状態をつくることが欠かせません。とはいえ、その対策は特別なものではありません。技術情報をテキストで正確に発信し、顧客の課題に答え、一次情報で専門性を示す。さらに、自社サイトの外へ出て第三者から評価される。こうした本質的な情報整備の延長線上に、AI対策はあります。
そして忘れてはいけないのが、最後に選ぶのは人だということです。序盤はAIに拾われる仕組みを整え、終盤は人が信頼を勝ち取る。2つの取り組みがそろって、はじめて成果につながります。
まずは、自社の顧客がどの段階で何を使っているかを知ることから始めてください。顧客の実態把握が、正しい打ち手を選ぶ出発点になります。AI検索対策を含む製造業のマーケティングの全体像や、他の施策との優先順位についても、あわせてご覧ください。
調査概要
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この記事の著者プロフィール

大内田 将輝(おおうちだ まさき)
株式会社メディックス
ビジネスマーケティングユニット 3G
製造業支援グループ マネジャー
2015年にメディックスに入社。入社以来、BtoB特化のデジタルマーケティング支援部隊に所属。大手製造業(電機メーカー、鉄鋼業など)をはじめとするBtoB企業を100社以上担当。データセンター事業者にて、マーケティング担当者としての常駐経験あり。BtoB企業のマーケティング、セールス領域において、戦略設計から実行、運用まで一気通貫で対応可。現在はBtoB製造業様のマーケティング支援を行う営業グループの責任者としてマネジメント業務に従事。
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